皆様、こんにちは 行政書士・社労士の山田です。
企業経営者の皆様、そして人事・労務ご担当者の皆様は、日々の業務の中で「労働基準監督署」という言葉を耳にするたびに、少し身構えてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
労働基準監督署の監督指導は、決して企業を罰することだけが目的ではありません。労働基準法をはじめとする労働関係法令が企業で適切に運用されているかを確認し、もし不備があれば改善を促すことで、労働者の安全と健康、そして健全な労働環境を守る役割を担っています。
しかし、ひとたび是正勧告や指導が入ると、対応に多くの時間と労力がかかり、最悪の場合、企業の信用問題に発展するケースもあります。
今回は、労働基準監督署の調査で特に指摘を受けやすい項目や、具体的な是正勧告事例を交えながら、企業が今すぐ確認すべきポイントを解説します。
なぜ労働基準監督署の調査が入るのか?
労働基準監督署の調査は、大きく分けて以下のケースで実施されます。
- 定期監督: 監督署が独自の計画に基づいて無作為に企業を選定し、定期的に行う調査です。業種や規模を問わず対象となる可能性があります。
- 申告監督: 従業員や元従業員からの「賃金が支払われていない」「長時間労働を強いられている」「ハラスメントを受けている」といった申告(通報)に基づいて行われる調査です。この場合、具体的な問題点に絞って集中的に調査が行われることが多いです。
- 災害時監督: 労働災害が発生した場合に、その原因究明と再発防止のために行われる調査です。
- 再監督: 過去に是正勧告を受けた企業に対し、改善状況を確認するために行われる調査です。
特に申告監督は、従業員からの通報がきっかけとなるため、いつ調査が入ってもおかしくない状況と言えるでしょう。
労働基準監督署が特に「重点的に見ている」項目とは?
近年、労働基準監督署が特に力を入れて監督指導を行っているのは、以下のような項目です。
- 賃金不払い残業(サービス残業)の是正: 最も多い指摘事項の一つです。
- 長時間労働の抑制と36協定の遵守: 時間外労働の上限規制(特に2024年問題関連)への対応状況。
- 年次有給休暇の確実な取得(5日取得義務など): 労働者への時季指定義務の履行状況。
- ハラスメント対策の実施状況: パワハラ防止法の施行に伴う企業内体制の整備。
- 労働条件の明示: 労働契約締結時の労働条件通知書の交付状況。
- 就業規則の作成・届出・周知: 変更があった場合の適切な手続き。
- 安全衛生管理体制: 労働者の安全と健康を確保するための体制。
よくある是正勧告・指導事例と確認ポイント
具体的な事例を通して、自社に当てはまる点がないか確認してみましょう。
事例1:残業代の計算間違い・未払いに関する是正勧告
内容: 「従業員Aさんの残業時間が正しく計算されておらず、時間外手当が不足している。特に、深夜労働や休日労働の割増率が適用されていない箇所が見受けられる。」
企業が今すぐ確認すべきこと
- 勤怠管理の徹底: タイムカードや勤怠管理システムにより、1分単位で正確な労働時間を記録できていますか?
- 割増賃金の計算: 時間外労働(25%以上)、深夜労働(25%以上)、休日労働(35%以上)の割増率が正しく適用されていますか?
- 基礎賃金からの除外賃金: 残業代の計算に含めない手当(通勤手当、家族手当など)が正しく区分されていますか?
- 管理監督者の範囲: 管理監督者として扱っている従業員が、本当に労働基準法上の要件を満たしていますか?(形ばかりの管理職は認められません)
事例2:36協定に関する是正勧告・指導
内容: 「時間外労働に関する協定(36協定)が、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出ていない。また、記載内容に不備がある。」
企業が今すぐ確認すべきこと
- 36協定の届出: 毎年、労働基準監督署に届け出ていますか?(自動更新ではありません)
- 記載内容の適正性:
- 時間外労働の限度時間(原則月45時間・年360時間)を超過していませんか?
- 特別条項を設ける場合の要件や手続きが明記されていますか?
- 労働者代表の選出が適正に行われていますか?
・周知義務の履行: 従業員が36協定の内容をいつでも確認できる状態になっていますか?(掲示、備え付けなど)
事例3:年次有給休暇に関する是正勧告
内容: 「年5日の年次有給休暇の時季指定義務が履行されていない従業員がいる。また、有給休暇の取得状況を適切に管理・把握できていない。」
企業が今すぐ確認すべきこと
- 年5日取得義務の確認: 基準日から1年以内に5日以上の有給休暇を取得させていますか?
- 時季指定の方法: 5日未取得の従業員に対して、会社が時季指定(取得日を指定)を行っていますか?
- 管理簿の作成・保存: 有給休暇管理簿を作成し、3年間保存していますか?
・就業規則の整備: 有給休暇の付与日数、取得方法、時季変更権などについて、就業規則に 明記されていますか?
事例4:就業規則の作成・周知に関する指導
内容: 「従業員が10名以上であるにも関わらず、就業規則が作成されていない。または、作成されているが、労働基準監督署への届出や従業員への周知が不十分である。」
企業が今すぐ確認すべきこと
- 就業規則の作成・届出: 常時10人以上の従業員を使用する事業場は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。
- 変更時の手続き: 内容に変更があった場合も、遅滞なく届出を行っていますか?
- 周知義務の履行: 従業員がいつでも就業規則の内容を確認できる状態にしていますか?(書面での交付、社内イントラネットへの掲載、常時掲示など)
労働基準監督署の調査が入ってしまったら…社労士ができること
もし、実際に労働基準監督署から調査の連絡が入ってしまった場合、慌てずに冷静に対応することが重要です。当事務所のような社労士は、企業の皆様の強い味方となります。
- 事前準備のサポート: 調査前に必要な書類(就業規則、賃金台帳、タイムカードなど)の確認と整理をサポートします。
- 調査当日の立ち会い: 監督官との質疑応答に同席し、適切な説明をサポートします。
- 是正勧告への対応支援: 指摘事項に対する具体的な改善策の立案や、是正報告書の作成を支援します。
- 再発防止のための体制構築: 根本的な労務管理体制の見直しや、リスクマネジメントの提案を行います。
日頃からの労務管理が企業の未来を守る
労働基準監督署の是正勧告・指導は、企業にとって「改善すべき点」を教えてくれる貴重な機会でもあります。日頃から労働関係法令を遵守し、適切な労務管理を行うことは、従業員が安心して働ける環境を作り、ひいては企業の生産性向上や信用力向上にも繋がります。「うちの会社は大丈夫だろうか…」と不安に思われた経営者様やご担当者様は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。皆様の会社が安心して事業を継続できるよう、全力でサポートさせていただきます。

従業員と共に、成長できる未来を築いていきましょう。


