なぜ今、制度改正が必要なのか?

日本における外国人材の受け入れ制度は、長らく「技能実習制度」がその中心的な役割を担ってきました。しかし、この制度は「国際貢献」を建前としながらも、実態として国内の人手不足を補う側面が強く、人権侵害や低賃金労働といった問題点が指摘されてきました。

こうした課題を解決し、外国人材が日本で「人材」として真に成長し、その能力を最大限に発揮できるような環境を整備するため、政府は技能実習制度を廃止し、「育成就労制度」へと移行する方針を決定しました。この大きな制度変更は、外国人材を受け入れている、あるいはこれから受け入れを検討している企業にとって、喫緊の課題となります。

今回は、技能実習制度から育成就労制度への移行の背景と、企業が今から準備すべき具体的なポイントについて解説します。


1. 技能実習制度から「育成就労制度」への変更点と目的

新しい「育成就労制度」は、現行の技能実習制度の反省を踏まえ、以下の点を強化することを目指しています。

  • 人権保護の強化とキャリアアップの促進:
    • 最大の特徴は、原則として同一分野内での転籍(転職)を認める点です。これにより、外国人材は不当な労働環境から逃れることができ、より良い条件やキャリアアップの機会を求めて転職する自由が与えられます。
    • 転籍には一定の要件(1年以上の就労、技能評価試験合格、日本語能力要件など)が課される見込みですが、これは実習生(育成就労者)の選択肢を広げ、企業間の健全な競争を促す効果も期待されます。
  • 人材育成の明確化:
    • 「育成就労」という名称が示す通り、単なる労働力としてではなく、特定技能外国人への移行を見据えた人材育成が制度の核となります。
    • より実践的な技能や知識の習得、日本語能力の向上などが重視され、カリキュラムや評価方法もより明確化されるでしょう。
  • 受入れ機関の責任強化と監督体制の厳格化:
    • 外国人材の育成や生活支援に対する企業の責任がこれまで以上に明確になります。
    • 不正行為や人権侵害があった場合の罰則強化や、企業に対する指導監督も厳格化される見込みです。

2. 企業が今から準備すべきこと

この制度移行は、単なる名称変更ではなく、外国人材の受入れ企業における労務管理や人材育成のあり方を根本的に見直す契機となります。

準備すべきポイント

  1. 外国人材の定着戦略の見直し
    • 転籍(転職)リスクへの対応: 育成就労制度では、原則として転籍が認められるため、外国人材が「辞めない」ための魅力的な職場づくりが不可欠です。賃金、福利厚生はもちろん、日本語学習支援、生活相談体制の充実、キャリアパスの提示など、人材の定着を促進する施策を強化しましょう。
    • 公正な評価と賃金制度: 日本人従業員と同等以上の公正な評価と、適切な昇給・昇進の機会を提供することで、外国人材のモチベーション維持に繋がります。
  2. 育成計画の再構築と日本語教育の強化
    • 育成就労制度では、より実践的な技能と日本語能力の向上が求められます。育成計画を特定技能への移行を見据えた内容に見直し、OJT(On-the-Job Training)とOff-JT(Off-the-Job Training)を組み合わせた体系的な教育プログラムを検討しましょう。
    • 業務に必要な日本語だけでなく、日常生活やキャリアアップに繋がる日本語教育の機会を積極的に提供することが重要です。
  3. 既存の技能実習生への対応
    • 現在雇用している技能実習生が、新制度移行後にどのように扱われるのか、詳細な情報収集が必要です。基本的には、現行制度で入国した実習生は、残りの実習期間は現行制度のルールが適用されるとされていますが、育成就労制度への円滑な移行措置が設けられる可能性もあります。
    • 対象となる実習生に対し、新制度の情報を丁寧に説明し、不安を解消するためのコミュニケーションを密に取るようにしましょう。
  4. 関係機関との連携強化
    • 新制度においては、送出し機関や監理団体(新制度では「育成就労を支援する機関」などに名称変更される可能性)の役割も変わる可能性があります。最新の情報をこれらの機関と共有し、密に連携していくことが不可欠です。
    • 制度の解釈や運用に迷う場合は、入管庁や外国人材の労務管理に詳しい社労士、行政書士といった専門家に相談することを推奨します。

まとめ:外国人材を「人財」へ

技能実習制度から育成就労制度への移行は、単に法律が変わるだけでなく、外国人材を受け入れる企業の意識改革を促すものです。これまで以上に、外国人材を「労働力」としてではなく、「共に成長する人財」として尊重し、育成していく視点が求められます。

この制度改正は、外国人材のエンゲージメントを高め、企業の持続的な成長に繋がる大きなチャンスでもあります。複雑な制度変更への対応や、外国人材の定着支援、適切な労務管理には専門知識が不可欠です。

当事務所では、育成就労制度への円滑な移行支援はもちろんのこと、外国人材の採用から育成、労務管理全般にわたるサポートを提供しております。ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

従業員と共に、成長できる未来を築いていきましょう。