「うちの会社は大丈夫?」
社長のあなたは、そう思っていませんか?実は、残業代の計算は、多くの会社で「気づかないうちに間違っている」ケースが少なくありません。特に、働き方改革によってルールが変わり、知らない間にトラブルの火種を抱えてしまうことも…。
「労働基準監督署からの指摘」や「元従業員からの訴え」なんてことになったら、会社の信用に関わりますし、何より日々の業務に支障が出ますよね。
でもご安心ください!正しい知識と少しの工夫で、残業代トラブルは未然に防げます。この記事では、働き方改革に対応した残業代計算の基本と、トラブルを防ぐための具体的なチェックポイントを、分かりやすく解説します。
1. 働き方改革で何が変わった?残業代計算の基礎知識
まず、「働き方改革」と聞いて「何となく難しそう…」と感じる方もいるかもしれませんね。でも、ごくシンプルに言えば、「従業員が、より健康的に、より公平に働けるようにするためのルール変更」です。
特に残業代に関しては、大きく2つのポイントがあります。
- 月60時間超の残業の割増賃金率がアップ
- 以前は「大企業だけ」だった月60時間超の残業に対する割増賃金率(通常の賃金の50%)が、2023年4月1日から中小企業にも適用されています。
- 例えば、1時間の残業が通常1,000円の会社なら、月60時間を超える部分の残業は1時間あたり1,500円(1,000円×1.5倍)になるということです。
- 残業時間の正確な把握がより重要に
- 労働時間管理の適正化が強く求められるようになりました。つまり、誰が、いつ、何時間働いたかを、より正確に記録することが必須になったのです。これは、残業代計算の「土台」となる部分で、ここが曖昧だとすべてが崩れてしまいます。
これらの変更に対応するためには、残業代の基本的な計算ルールをしっかり理解しておくことが重要です。
2. これだけは押さえたい!残業代トラブルを防ぐチェックポイント
給与計算は、会社の「お財布」と「従業員の生活」に関わる、とてもデリケートな部分です。トラブルを避けるために、特に以下の点に注意しましょう。
ポイント1:労働時間は「分単位」で正確に把握していますか?
「うちはタイムカードがあるから大丈夫!」と思っていませんか?実は、意外な落とし穴があります。
- 1分単位での記録・計算が基本
- 労働時間は1分単位で計算するのが原則です。「15分未満は切り捨て」や「30分単位で丸める」といった運用は、違法となる可能性が高いです。
- 例えば、従業員が8時58分に出勤していても、9時からしか記録しない、退勤時間が18時02分なのに18時で切り捨てる、といった運用はNGです。
- 休憩時間と労働時間の区別
- 従業員が「完全に自由」に過ごせる時間が休憩時間です。電話番や来客対応を命じられている時間は、たとえ休憩時間とされていても、労働時間として扱われる可能性があります。
ポイント2:「みなし残業代」のルール、正しく理解していますか?
「うちはみなし残業代制だから、残業代の心配はいらないよ」と考えている社長さんもいるかもしれません。しかし、これは大きな誤解につながりやすい点です。
みなし残業代(固定残業代)とは、毎月一定時間分の残業代を、あらかじめ給与に含めて支払う制度のこと。しかし、これが有効になるには厳しい条件があります。
- 通常の賃金と明確に区別して記載しているか?
- 給与明細や雇用契約書に、「基本給〇〇円、固定残業代(〇時間分)〇〇円」のように、基本給と固定残業代が明確に分けられている必要があります。
- 設定した時間を超えたら追加で支払っているか?
- ここが最も重要です!たとえ固定残業代を導入していても、実際に働いた残業時間が、設定した時間を超えた場合は、その超過分を追加で支払う義務があります。これがないと、違法な「固定残業代制度」と見なされてしまいます。
「例えるなら、飲み放題のお店で『〇時間までは飲み放題ですが、それを過ぎたら追加料金です』というのと一緒です。事前に決めた分は固定ですが、超えた分は追加で払うのが当たり前ですよね。」
ポイント3:「管理監督者」の範囲、本当に合っていますか?
「うちの部長は管理監督者だから、残業代は払わなくていいんだ」という話を聞くことがあります。これも非常に注意が必要なポイントです。
労働基準法上の「管理監督者」は、一般的な会社の役職名とは違い、極めて限定的に解釈されます。
- 経営者と一体的な立場:経営方針の決定に参画し、労働時間に関する裁量が大きいなど、経営者とほぼ同等の権限と責任を持つ人を指します。
- 「名ばかり管理職」に注意:役職名が「店長」や「部長」でも、実態として残業代を支払う必要がある「管理職」は少なくありません。例えば、
- 出退勤の自由がなく、上司の指示を受けている
- アルバイトと同じような業務をしている
- 一般社員と給与水準が大差ない
管理監督者であっても、深夜割増賃金(22時~翌5時)は支払う必要があります。
ポイント4:勤怠管理や給与計算、どうしていますか?
手計算やエクセルでの管理では、法改正への対応や、正確性の確保が難しくなりがちです。
- 勤怠管理システムの導入
- 打刻の記録が自動化され、労働時間の正確な把握に役立ちます。法改正にも自動で対応してくれるシステムが多いので、計算ミスを防げます。
- 給与計算ソフトの活用
- 残業代の計算はもちろん、社会保険料や所得税の控除なども自動で行ってくれるため、大幅な効率アップとミスの削減につながります。
まとめ:トラブル防止は「知ること」から
今回の内容の要点をまとめます。
- 働き方改革で中小企業も月60時間超の残業割増率アップ(2023年4月~)。
- 残業代トラブル防止には「労働時間の正確な把握」が最重要。1分単位での記録を心がけましょう。
- 「みなし残業代」は、超過分の支払い義務が必須。
- 「管理監督者」は極めて限定的。名ばかり管理職にご注意を。
- 勤怠・給与計算システムの導入は、正確性と効率化に大きく貢献します。

残業代計算は複雑に見えますが、基本的なルールと注意点を押さえれば、決して難しいものではありません。しかし、日々の業務に追われる中で、「これで本当に合っているのか…」と不安を感じることもあるでしょう。
そんな時は、一人で悩まずに、ぜひ専門家を頼ってください。 私は未経験から個人開業した社会保険労務士として、「専門用語をなるべく使わず、中小企業の社長さんの目線に立って、分かりやすくサポートすること」をモットーにしています。
残業代計算や働き方改革への対応について、もし少しでも不安な点があれば、お気軽にご相談ください。 貴社の状況に合わせて、最適なアドバイスとサポートをさせていただきます。
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情報源:
- 厚生労働省「時間外労働の割増賃金率の引上げ(月60時間超)について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyounushi/shokkumu/07.html
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html
従業員と共に、成長できる未来を築いていきましょう。


