なぜ今、就業規則の見直しが必要なのか?

企業を取り巻く環境は常に変化しており、労働力人口の減少、多様な働き方の普及、ハラスメント問題の深刻化など、対応すべき課題が山積しています。これに伴い、労働関係法令も頻繁に改正され、企業には常に最新の法改正への対応が求められます。「知らなかった」では済まされないリスクを避けるためにも、法改正に対応した就業規則の整備は不可欠です。

法改正に対応しない就業規則は、労使間のトラブルを引き起こすだけでなく、行政指導、罰則、企業の社会的信用の失墜といった深刻なリスクを招きます。特に2025年に施行される法改正は、多くの企業に影響を与える可能性があり、早急な見直しが不可欠です。

本記事では、行政書士・社労士の視点から、2025年に施行される主要な法改正の概要と、それに対応するための就業規則の見直しポイントを具体的に解説します。貴社の労務リスクを未然に防ぎ、従業員が安心して働ける職場環境を整備するための一助となれば幸いです。


1.【最重要】2025年施行の「カスタマーハラスメント対策」の義務化とその対応

2024年3月に厚生労働省が策定した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」に続き、2025年には企業によるカスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)対策が法的に義務付けられる可能性が高いとされています。これは、労働者の安全配慮義務の一環として、企業が顧客からの理不尽な要求や暴言、暴力などから従業員を守るための具体的な措置を講じることを求めるものです。

就業規則での対応ポイント

就業規則での対応ポイント

定義の明確化

カスタマーハラスメントがどのような行為を指すのか、具体例を挙げて就業規則に明記します。

相談窓口の設置と周知

従業員が安心して相談できる窓口(社内窓口、外部相談窓口など)を設置し、その利用方法を周知徹底する規定を設けます。

被害者への配慮措置

被害者に対する精神的ケア(カウンセリング、休職制度)、配置転換などの配慮措置に関する規定を盛り込みます。

行為者への対応方針

スタマーハラスメントを行った顧客等に対する毅然とした対応(サービス提供の拒否、出入り禁止、警察への通報など)を、必要に応じて就業規則や関連規程に定めます。ただし、顧客との関係性も考慮し、慎重な文言にする必要があります。

研修・啓発の実施

従業員向けの研修や、カスタマーハラスメントに関する社内啓発活動に関する規定を検討します。

社内体制の整備

発生時の対応フローや責任の所在を明確にする規定を検討します。


2.「育児介護休業法」改正に伴う、より柔軟な働き方への対応

働き方改革の一環として、育児・介護と仕事の両立支援は今後も強化されていく方向です。特に育児休業については、より柔軟な取得を促すための制度改正が継続的に行われており、2025年以降も短時間勤務制度の対象拡大や、子の看護休暇・介護休暇のさらなる利用促進に関する改正が検討される可能性があります。

就業規則での対応ポイント

就業規則での対応ポイント

育児休業・介護休業の取得要件・期間・手続き

法改正に合わせた最新の取得要件、期間、申し出手続きを明確に規定します。特に、分割取得や柔軟な期間設定に関する規定を見直します。

子の看護休暇・介護休暇の拡充

時間単位での取得可否、取得事由の明確化、取得回数の上限などを見直します。

短時間勤務制度の対象拡大

法改正によって短時間勤務制度の対象となる子の年齢が引き上げられた場合、就業規則の対象規定を修正します。また、短時間勤務中の給与計算方法や、フルタイム復帰に関する規定も確認が必要です。

不利益取扱いの禁止

育児・介護休業等の取得を理由とした不利益な取扱いを明確に禁止する規定を再確認します。

代替要員の確保、業務の見直し

育児介護休業者が発生した場合の業務体制に関する企業の努力義務を記載することも検討します。


3.「多様な人材の活用」を促すための就業規則のアップデート

高齢者雇用やフリーランスの活用など、労働力人口の減少に伴い、企業は多様な働き方をする人材を積極的に活用していく必要があります。これに関連する法改正や指針が、就業規則に影響を与える可能性があります。

就業規則での対応ポイント

  • 高齢者雇用に関する規定:
    • 高年齢者雇用安定法に基づく**70歳までの就業機会確保措置(努力義務)**の具体的な内容を検討し、関連規定(定年、継続雇用制度、再雇用制度など)を確認します。
    • 高齢者の健康管理や就労条件に関する配慮規定を設けることも検討します。
  • フリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の影響:
    • フリーランスとの契約に関する内容を就業規則に直接記載することはありませんが、企業がフリーランスと契約する際の「募集情報等提供」や「契約内容の書面交付」などの義務が企業側に発生します。社内規定や業務フローとしてこれらの義務を遵守する体制を整備し、就業規則との整合性を確認しておく必要があります。
    • 従業員が副業・兼業としてフリーランス活動を行う場合のルール(兼業・副業規定)を明確にする際、フリーランス保護新法の趣旨も踏まえることが望ましいです。
  • 多様な働き方への対応:
    • リモートワーク(テレワーク)に関する規定の適正化(労働時間管理、費用負担、情報セキュリティなど)
    • 副業・兼業に関する規定(許可制か届出制か、本業への支障の有無、情報漏洩リスクなど)の明確化。

4.見直しを怠った場合のリスクと企業の責任

法改正に対応しない就業規則は、企業に様々なリスクをもたらします。

  • 行政指導・勧告・罰則: 労働基準監督署等の立ち入り検査で指摘を受け、是正勧告の対象となるだけでなく、場合によっては罰則が科せられる可能性もあります。
  • 労使トラブルの激増: 法令に適合しない就業規則は、残業代未払い、ハラスメント問題、不当解雇などを巡る労使トラブルの温床となります。紛争解決には多大な時間、費用、労力がかかり、企業の生産性低下にも繋がります。
  • 企業イメージの低下と採用への影響: 労働法令違反は、企業の社会的信用を著しく損ね、採用活動にも悪影響を及ぼします。優秀な人材の獲得が難しくなり、企業の成長を阻害する要因となります。
  • 従業員のエンゲージメント低下: 不適切な就業規則は、従業員の不信感や不満を招き、モチベーションやエンゲージメントの低下に繋がります。

5.就業規則見直しの具体的な進め方と専門家活用のメリット

就業規則の見直しは、以下のステップで進めることが重要です。

  • 現状把握と情報収集: まずは現行の就業規則を詳細に確認し、2025年の法改正に関する最新情報を正確に収集します。厚生労働省のHPや専門家の情報などを活用しましょう。
  • 改正ポイントの洗い出し: 本記事で解説したポイントを参考に、自社の就業規則で修正が必要な箇所を具体的に洗い出します。
  • 従業員への周知と意見聴取: 労働基準法に基づき、就業規則を変更する際には従業員代表の意見を聴取し、変更後の就業規則を周知徹底する義務があります。このプロセスを丁寧に行うことが、従業員の理解と協力を得る上で不可欠です。

就業規則の作成や変更は、専門的な知識と経験が必要です。特に法改正への対応は複雑であり、自己判断での対応にはリスクが伴います。

COREZOでは、2025年以降の法改正を見据えた就業規則の作成・変更をサポートしています。労務リスクを最小限に抑え、貴社の経営戦略に合致した最適な就業規則をオーダーメイドで作成します。まずは、お気軽にご相談ください。 → 就業規則 - 社会保険・労務相談に強い社労士COREZO|港区


おわりに:就業規則は「守り」と「攻め」の経営ツール

就業規則は、単に法令遵守のための「守り」のツールではありません。適切に整備された就業規則は、労使間の信頼関係を構築し、従業員のモチベーション向上、生産性向上に繋がる「攻め」の経営ツールとなり得ます。2025年の法改正を機に、貴社の就業規則を再点検し、より強固で持続可能な企業経営の基盤を築きましょう。

従業員と共に、成長できる未来を築いていきましょう。